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zoom RSS 酔夢譚

<<   作成日時 : 2008/09/24 20:25   >>

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もう二年前になりますか。
夏のことです。
7月の、美しい夜のこと。
 
恋人を亡くした女がおりました。
年若い恋人は遠い戦場で、春に死にました。
女はその死を知ってから、その身が真っ二つにされたような気持ちを抱え、息をするのも苦しくて、いっそもう死んでしまいたいと願いながら、それが天の理に添わぬことも知っていました。
死んだ男が女の死を願うわけも無く、また、死んだ男の分まで自分は長生きしなければいけない、とも思いましたが、女が苦しいことにいっこう変わりはありませんでした。
 
悲恋の物語伝わる湖への誘いが酒場にあり、女が行きたいと願ったのは、それが楽師の祭りであるが為。
女も楽師の端くれで、そして女の二つ名には楽の一字が入っておりました。
そう、酒でも飲んで、弦が震える音で耳を満たせば、己の声など聞こえまい、と。
「あのひとにあいたいの。
ほんとうはあのひとのところへゆきたいの。
あなたのいないばしょになんて、いたくない……」
浮かんでくる呟きを、飲み込んで、押さえつけて。
 
けれど。
ゆらゆらと灯を映す水面を眺め、酒を飲み、音を奏でているうちに。
ふいと、水の下に何かを見出したのです。
あるいは、魅入られた、でしょうか。
『あの波の下にこそ、極楽浄土とて、めでたき都の候。それへ具し参らせ候ぞ』

酔うて狂うが酔狂と申します。
身投げをするは狂気の沙汰。
『面白う狂うて見せよ、
 狂うて見せずばこの舟に乗せまいぞとよ』

波の下の都へ。
あのひとがいるところへ。

少しばかり火照った耳が、水の冷たさを心地よく受け入れ。
もうとっくに涙で前が見えなくなっていた目も冷やされて。
心の中まで水浸しになって。
足は、水の底に届き。
いきたいんじゃない、かえりたいの。
あなたのところに。
かえりたい──かえれない。

水底にいくら手を伸ばしても、届かない。
決して、届きはしない。
その手を、誰かが掴む。
乱暴に水の上へと引き上げる。
楽園は届かないだけできっとすぐそこにあるのに、わたしをそこから遠ざけないで。
狂うのは、愚かしい、傍迷惑なこと。
わかってる、でも、じゃあ、どうしたらいい?
女は、涙を流しながら笑っておりました。
声を上げて泣いてしまえば、もう自分でもどうしようもなく、とめどない悲しみと苦痛の淵に落ちてしまうような気がしたからです。

「大馬鹿者め」

水から揚げられた魚のように暴れる女を、美しい腕はしっかりと捕らえて叱咤しました。
そして私は狂い損ね、水の下の都にはたどり着けなかったのです。


星祭り・楽の夜舟で酔夢を願う


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